沖縄国際大学の宮森教授、アドスタッフ博報堂の五味常務取締役によるマーケティング講座。
物が売れる仕組みを基礎から応用まで簡単に紹介します!


 
第1回 マーケティングは長期成功の鍵



 マーケティングには、いろいろな定義があります。その為に実務家の中には「マーケティングという言葉はよく聞くが、本当はどういうものだろう」という疑問を持っている人も少なくはありません。
  そこで、ここではマーケティングというものを正確に理解していただき、みなさんが自社の経営に取り入れていけるようにできたらと思います。

 私が学生達にいつも伝えるマーケティングとは、簡単に言えば「顧客のニーズを探り、交換を通してそれを満たす組織活動」です。
  詳しい説明をしたら、とてもスペースが足りませんので、簡単にご説明したいと思います。つまり、企業姿勢を消費者志向とし、彼らのニーズを満たすために科学的なマーケティング技術を駆使することが重要となってくるということです。
 「顧客のニーズを探る」意識とは、企業姿勢を現します。そして、「交換を通してそのニーズを満たす活動」とは、マーケティングの科学的手法を駆使して企業姿勢の実現を目指すものです。
  今回は顧客のニーズを探る意識を中心にお伝えします。



 昨今ビジネス界では、消費者志向とか顧客第一主義という言葉がはやっています。 しかし、それを具体的な行動に移している企業は少ないように思えます。これを徹底的に行うことによりいくつかの伝説が生まれています。

  例えば、ニューヨークの近くにある有名なスーパーマーケット「スチュー・レオナルド」には、2つのルールがあります。
  お店の前の誰がでも見える大きな岩にこう書いてあります。「ルール1:顧客は正しい」「ルール2:もし顧客が間違っていたらルール1を読み直せ」と。ここまで企業姿勢を徹底的に実行に移すことで伝説を造り、遠い沖縄のインターネットでも紹介されるほどになっています。
  ちなみにスチュー・レオナルド社は、これらの企業姿勢と実現プログラムを有料研修として公開しており、研修にはIBMやAT&T、シティーバンク、エクソン等の大手優良企業が参加しているそうです。
  よく似た事例に「ノードストローム」の顧客の期待を超えるサービスや「スカンジナビア航空」の真実の瞬間などがあります。
  ちなみにノードストロームの社員の決め言葉は「会社は何と言うかわかりませんが、私が必ず何とかしましょう」です。

 また、私が学生に出す課題に「新約聖書のルカ伝第6章31節」にあるマーケティングの心を調べてきなさいというものがあります。
これは黄金律とも呼ばれ有名な言葉です。この課題の答えは「あながた人からやってもらいたいことを、人にもやってあげなさい」です。裏を返すと、あなたという顧客はあなたの会社の商品・サービスを喜んで買うかどうかということです。
  マーケティングの内観法とも言える方法ですが、あなた自身を客観的に顧客として位置づけ、あなたの商品・サービスは他の人のものと考えた場合に、その商品・サービスを本当に必要とするか、欲するか、実際に行動に移して購入するかと言うことです。

 顧客第一主義などは体力のある大手企業ができることで、小さい県内の企業ではやっていけないという言葉を聞いたことがあります。こう考える企業は「マーケティング」と「販売」を混合しています。
 「販売」とは、まず商品があり、それを値引きや宣伝、販売員活動で顧客に売り込んで売上を上げ、利益を出すことです。
  「マーケティング」は顧客が何を必要としているか発見して、ニーズを満たすことができるように多くのマーケティング活動を駆使して「顧客満足」を作り上げ、その結果として利益が残るのです。

 大手の企業はマーケティングの専門家を育成し、先手先手でビジネスをリードしていきます。専門家のいない小企業だからこそ経営者自らマーケティングの専門家となり、販売でなくマーケティングでこの厳しい世界を生き残っていくことが重要なのです。
 販売では「今日の糧」を得ることはできますが、「明日の糧」はマーケティングが提供します。つまり、マーケティングの心を持つことにより、資源の少ない小企業でも長期的発展が望めると言うことです。




 抽象的な話ばかりになりましたが、ここでのポイントはマーケティング的企業姿勢です。そしてそれは、マーケティングを企業理念として取り入れることです。

  マーケティング技術は変化します。とくにITを活用するe−マーケティングなどは目を見張る勢いで発展しています。しかし、お客様を思う心を土台とし、経営者および従業員が顧客の喜ぶ顔(つまり満足)を目指して情熱を持って仕事を進めることは普遍です。
  まずは、マーケティング技術の活用の前に、マーケティング・マインドを持ちましょう。それができて初めて、市場調査や販売促進、流通網構築、新製品開発、セールスマン活動そして広告などが活きてくるのです。

 マーケティングは「マーケティング・マインド」と「マーケティング・テクニック」の2要素から成り立っています。みなさんの周りを見回しても、成功している会社はこの2要素のバランスが取れているはずです。

  まずはマーケティングの心を築きましょう。そして、次回はマーケティングのテクニックをご紹介します。



[沖縄国際大学教授 宮森正樹 2003.08.20]